マイクロニクス

ITSを実現するキーテクノロジー&デバイス

ETC車載器・路側機用自動試験システムとETCテスタME8000シリーズ

  1. はじめに
  2. ETCモニタ期間中には、いろいろな問題が発生した。車載器未実装車のETCレインへの誤進入や走行中に遮断バーが降りる危険性などの運用上の問題点のほかに、 料金所の屋根や水溜りによって引き起こされるマルチパス現象が原因の誤作動、フロントガラスに金属粉が入っているために電波が減衰され通信ができないなどの電気的問題点が発生した。

    当社は、1996年夏からETC試験システムの研究開発を開始し、各種のシステムを提案してきた。路側機(以下、RSU)用自動試験システムME8500(写真1参照)、車載器(以下、OBE)生産用自動試験システムME8600(写真2参照)および最も川下商品である車載器用ETCテスタME8800(写真3参照)を中核としている。このほかある試験に特化した受信感度検査システム、動的動作試験システム、OBE実車装着試験システム、プロトコル&通信試験システムも提案してきた。なお、ME8500に関しては、建設省(財団法人道路新産業開発機構:略称HIDO)発行のITS REVIEWやホームページに記載されている。

    本稿では、ETC試験の内容や現在問題あるいは注目されているバーストBER測定とマルチパスのシミュレーションについて述べる。さらに、今後のOBE生産で重要となる受信感度の調整についても述べることとする。

    写真-ETCテスタME8000シリーズ

    ETCテスタME8000シリーズ

  3. ME8500とME8600による試験
  4. RSU用自動試験システムME8500では、大別して無線形試験と動的動作試験を行うことができる。動的動作試験では、相手側として実際のOBEをマスタのOBEとして使用する。

    一方、OBE用自動試験システムME8600は、大別して無線系試験、動的動作試験およびプロトコル試験(基本動作試験)を行うことができる。ME8600の特長は、簡易型マスタRSUとしてRSUシミュレータME8610(写真4参照)を新たに開発したことである。ME8610はASK標準信号発生器としての機能も併せ持つ。主な仕様を表1に記す。

    表2に、ME8500とME8600で行える試験項目を示した。○印が試験可能な項目である。また、「技適項目」とはTELEC(財団法人テレコムエンジニアリングセンター)で行う技術適合試験を指している。○印が技適対象となる試験項目である。

    〔表1〕 ME8610の仕様

    送信特性 出力周波数 5.795/5.805GHz,±20ppm
    出力レベル 12dBm±2dB
    変 調 特 性 データ読出速度 2048KHz±100ppm
    デューティ比 約50%
    変調指数 約80%
    隣接チャンネル漏洩電力 -40dBm以下
    占有帯域幅 おおよそ5MHz
    受信特性 受信入力範囲 (-23~-43)から(-28~-48)dBm
  5. ピーク電力測定について
  6. 送信系の空中線電力の偏差は、ピーク電力を測定しなければならない。そこで、平均値電力計、マイクロ波AM検波器(当社製MMD850)およびA/D変換器を用いて測定している。図1は、RF信号をマイクロ波検波器を通してA/D変換器でとらえた波形である。A/D変換器のサンプリング速度は100MS/s、メモリ長は64Kバイトである。先頭と最後の1024データを捨て間の63488データ(1024~64511番地)を対象に下記の演算を行う。

    Ppk/Pav=10log[N・Vmax2/ΣVn2](dB)

    ピーク電力=平均電力+Ppk/Pav(dBm)

    Vmax:ピーク値を小さい順に並べ中間の8個のピーク値を対象(ノイズなどの特異データを削除)にして平均化する。その平均値をVmax。
    • Vn:1024番地~64511番地のデータ
    • N :63488
    • n :1024~64511
    図1:ピーク電力測定

    ピーク電力測定

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    試験項目 ME8500 ME8600 技適項目 試験物の設定
    電源試験     無変調連続「1」固定
    無線系試験
    ①空中線電力の偏差
    無変調連続「1」固定とPN15段連続
    ②周波数偏差 無変調連続「1」固定
    ③スプリアス発射の強度 無変調連続「1」固定
    ④占有周波数帯域幅 PN15段連続
    ⑤キャリアオフ時漏洩電力 キャリア送信禁止とPN15段連続
    ⑥変調指数   無変調連続「1」固定と「0」固定
    ⑦隣接チャンネル漏洩電力 PN15段連続
    ⑧送信アイ開効率11   PN15段連続
    ⑨信号伝送速度 無変調連続「1」固定
    ⑩送信出力絶対時間     バースト通信
    ⑪受信感度 optA   連続受信
    ⑫隣接波選択度     連続受信
    ⑬スプリアスレスポンス     連続受信
    ⑭副次的に発する電波の強度   連続受信(送信側はキャリアオフ)
    ⑮バーストBER測定 opt optB    
    プロトコル試験
    ①ACTC送信の確認
         
    ②ACTC送信停止の確認
    -最大送信回数
          
    ③ACTC送信停止の確認
    -ACPI
         
    ④ACTC送信停止の確認
    -FCMC
         
    ⑤BSTの受信      
    ⑥VSTの送信      
    ⑦終了手順1      
    ⑧終了手順2      
    ⑨データ送受信      
    ⑩データ送受信
    -連続
         
    ⑪データ送受信
    -重複リジェクト機能
         
    ⑫データ送受信
    -OBE再送機能
         
    ⑬データ送受信
    -OBE再送要求機能
         
    ⑭WCNC送信機能      
    動的動作試験 optE    
    ①通常走行試験
    ②低速走行試験
    ③高速走行試験
    上記試験の各々に対し
    a.理想パターン
    -OBE最大入力
    b.理想パターン
    -OBE最小入力
    c.実パターンA
    d.実パターンB
    e.隣接車線走行パターン
    f.シャドウウイングパターン
  7. ETCテスタME8800
  8. ETCテスタME8800は、自動車整備会社やカーディーラでのOBE取り付け後の最終検査、あるいはトラブル対応を主目的としているため小型化されているが、基本的には料金所に設置されたRSUと同等の機能・性能を有している。

    したがって、5.8GHzという非常に高い周波数のマイクロ波回路技術と通信プロトコルを処理するディジタル回路技術および高度なソフトウェア技術が要求されている。

    小型化のため、ディジタル回路はFPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)に集積した。また、送信電力が小さいためスプリアスの抑制には特別の注意が払われ、受信感度を高めるため十分な雑音対策が施されている。

    当初、郵政省との打ち合せでは、電波法の適用外である微弱電波(35μV/m@3m)しか認められないということだった。そこで、実験を重ね、かついろいろ検討した結果、どうしても微弱電波では通信は無理であるという結論に達した。

    当社は、郵政省の本省にレポートを提出するなど7ヶ月を費やして実験局としての取り扱いではあるが許可を得、本省からは事務連絡事項として各地方電気通信管理局に通知された。その後、関東電気通信管理局と打ち合せをして実験局開設のためのルールづくりをした。手初めに当社が第1号として、正式に2000年7月24日付けで免許を受けた。また、国に代わって実験局の検査を行うことのできる第三種点検事業(認定番号 関三第0083号)の資格も併せて取った。したがって、実験局開設申請から検査まで一貫して当社が作業することができる体制を整えている。

    現在、OBEメーカ、自動車メーカ、カーナビメーカから開発用および生産ライン向けとして受注を受け、実験局申請を行っている。

    1. 試験方法・内容がテスタとして十分である
      ETCテスタは、料金所に設置されたRSUと基本的に同じ機能を備えなければならず、しかも小型でなければならない。そこで、ARIB規格で決められた基本接続試験のプロトコルを実行している。
    2. 送信電力が0.4mWと非常に小さい
      送信電力を小さくすると、機器内で発生するスプリアスにより通信エラーが発生する。しかしこれを0.4mWまで下げた。それでも約3mの通信距離を確保している。検査には十分な距離である。
    3. 電波法へ対応しているので屋外で自由に使用できる
      本器において最も重要な点は、ETCテスタは電波を発射するため、電波法にのっとる必要があるということである。当初、電波法の適用外である微弱電波で実験を進めたが、5.8GHzという高い周波数のため空間減衰が大きく不可能という結論に達した。その旨を郵政省に伝え、レポートの提出などにより、0.4mW送信電力で了承された。これにより本器は室外で自由に使用することができる。
    4. 小型・ハンディで取り扱いが容易である
      電源コードやアンテナケーブルなどが全くない完全な1ピースなので、取り扱いが簡単である。電源は単三電池2本で動作し、400~500回の試験ができる。しかもW150×H110×D35mm、300gと小型・軽量である。
    5. 操作が非常に簡単である
      自動車の検査員や整備員が現場で使用することを考え、操作はスタートボタンを押すだけとした。スタートボタンを押すと自動的に電源がオンして試験を始め、試験結果をランプとブザー音で知らせた後5秒後に自動的に電源がオフとなる。電池の消費量の節約にもなる。
      ブロック図を図2に示した。
    図2:ME8800のブロック図

    図2:ME8800のブロック図

    ETCテスタME8800現在の用途としては、表3のとおりである。  市場規模については、自動車整備商工組合関連(自動車会社系ディーラ含む)20,000台、OBEメーカ500台、自動車メーカ1,000台、カーナビメーカ200台、カー用品店500台、高速道路公団1,000台、そのほか500台の合計23,700台と予想している。将来的には、現在審議されているDSRC(狭域通信)への応用、あるいは東京都の交通規制に関するETCの利用等が考えられ、市場はますます広がるものと予測している。

    〔表3〕 ME8800の用途

    用途 使用分野名
    OBEを自動車に取り付けた後の最終検査 自動車整備商工組合、
    自動車メーカ(ETC内蔵車)
    OBE製造時の出荷検査 OBEメーカ、カーナビメーカ
    トラブル対応 高速道路公団、OBEメーカ
    OBEソフト開発時の
    簡易チェッカ
    OBEメーカ、カーナビメーカ、自動車メーカ
  9. バーストBER測定
  10. BER(ビットエラーレート)測定は、受信感度、隣接波選択度、スプリアスレスポンスの試験において行われている。しかし、これらの試験では連続PN15段信号が用いられている。したがって、実際の通信状態であるキャリアオフ状態が含まれていない。

    そこで、実際の通信を行わせ、受信感度測定と同じ方法で試験を行う。図3に、ME8600システムにおけるバーストBER測定のブロック図を示した。被試験物はOBEであり、比較データサイズは最大128Kバイトである。

    被試験物がOBEの時は、下りBER測定になるのでサーキュレータによって上り、下りラインに分離し下りラインにのみプログラマブル減衰器を挿入している。上りはストレートに通している。さもないと、OBEとRSUのどちらを試験しているのか明確にならないからである。また、OBEからはBER測定のためにRxC信号とRxD信号を取り出す必要がある。バーストBER測定では実際の通信の代わりに図4に示すようにPN15段データを使う方法もある。

    〔表4〕 BER測定部の仕様

    比較データサイズ 128kバイト(最大)
    測定時間 1~4,096秒、1秒ステップ設定
    トリガパターン 8~32ビット、8ビットステップ設定
    エラーレート 2.3×10-10(最小)
    図4: PN15段信号によるバーストBER測定

    図4:PN15段信号によるバーストBER測定

    図3: バーストBER測定のブロック図

    図3:バーストBER測定のブロック図

  11. 動的動作試験とマルチパス問題
  12. 別名、電力パターン試験である。ARIB TR-T8では表2の内容が規格化されている。図5には、代表的な実パターンAのパターン図を示した。この試験はOBEとRSUの間の空間の状態をシミュレーションしている。

    例えば、実パターンAではOBEとRSU間の距離が近付きそして遠ざかっていく、かつその間に障害物(鳥やゴミなど)で電波が遮断される様子をシミュレートしている。ME8500とME8600では表2で示す電力パターンでの動的動作試験を行っている。

    図5: 動的動作試験の実パターンA

    図5:動的動作試験の実パターンA

    しかし、以前から指摘されており、さらにモニタ期間中にさらに鮮明にクローズアップされたのが、電波のマルチパスによる誤動作問題である。これは、料金所の屋根(ただし、屋根のない料金所もある)や雨による水溜り(路面が鏡面状となる)、あるいは雪により電波が乱反射して、いろいろなルートを通ってOBEあるいはRSUアンテナに到来する現象である。

    簡単にいえば、テレビ電波がビルによって反射して映像が2重、3重に映る現象である。マルチパス現象が発生すると、位相差の異なる多重信号が入力されるため、本来の信号が正しく復調されなくなってしまう。

    そこで、図6に示したブロック図を構成し、高速プログラマブルアッテネータMAT800(写真5参照)にマルチパス現象の発生しやすいいくつかの料金所の電力パターンを入力してOBEの試験を行う。

    写真5:高速プログラマブルアッテネータMAT800

    写真5:高速プログラマブルアッテネータMAT800

    図6: 動的動作試験ブロック図

    図6:動的動作試験ブロック図

    MAT800は、128Kワードのプログラムメモリを内蔵し、最高2μs/ワードで読み出すことができる。プログラムメモリのデータは減衰量プログラム作成ソフトを使い、Windowsパソコン上で簡単に作成することができる。作成した波形データをMAT800に転送して使用する。サーキュレータは、OBEからRSUへの上り信号には電力パターンを加えないようパスさせるために挿入されている。さもなければ、試験にME8800(改)の性能も加味されてしまうからである。

    また、ME8661(写真6参照)はW820×H500×D500mmの電波暗箱であり、電波吸収体、銅板、アルミ板の3重構造となっている。また、2~18GHz帯域の右旋円偏波アンテナ(写真7参照)が装着されている。ME8800(改)はETCテスタME8800を同軸接続タイプに改造したものである。

    写真6:電波暗箱 ME8661

    写真6:電波暗箱 ME8661

    写真7:2~18GHz右旋円偏波アンテナ

    写真7:2~18GHz右旋円偏波アンテナ

  13. 受信感度検査システム
  14. OBEの生産ラインでは、2つの重要な調整項目がある。一つは、送信出力電力であり、申請値(10mW以下)の+50%以内でなければならない。申請値が±10dBm(10mW)とすると、-3.01/+1.76dB以内とする必要がある。もう一つは受信感度で、-60dBm以下でなければならない。また、この時、BER値は1×10-5以下である必要がある。

    さらに、無応答入力規格を満足させる必要がある。この規格は、OBEは-70.5dBm eirp以下の入射電力ではRSUからの通信に応答しないことである。

    この2つの調整項目のうち送信出力電力については、設計基準を厳しく設定すれば信号レベルも高いのでセット間バラツキも少なく、無調整で大丈夫かもしれない。しかし、受信感度は入力レベルも小さくセット間バラツキも大きくて無調整というわけにはいかない。また、BER測定において、判定BER値を1×10-5の1点あるいは狭く取ると、測定時間が非常に長くなって生産ラインでは使えなくなってしまう。

    そこで、BER値と入力レベル変化ステップにある程度の幅をもたせざるを得ないが、こうすることにより受信感度は実力値より悪化して測定されることになる。無応答入力規格についても同様のことがいえる。したがって、受信感度と無応答入力との差10.5dBはラフな値のようであるが、意外と厳しい数字である。

    そこで、ETC車載器受信感度検査システムとして以下の内容で提案している。

    ETC車載器受信感度検査システムのブロック図を図7に示した。本システムは、ME8800を内蔵した送受信装置と高速プログラマブルアッテネータMAT800/B、送信および受信パッチアンテナを内蔵し、被試験OBEを入れる電波暗箱ME8661、平均値電力計およびパソコンから構成されている。

    RSUサイドとして、RSUシミュレータME8610を使用してもよいが、システム価格を下げるためME8800を使用した。受信感度の設定分解能は標準0.5dB(ただし設定により0.05dBまで可能)である。送信電力値の安定化のために、1台のOBEを測定するごとに1回、平均値電力計で送信パッチアンテナへ供給される電力を測定し、OBEの受信レベルが設定電力となるようにMAT800を自動的に設定している。平均電力が測定されるときは、ME8800はPN15段に設定されている。

    受信感度校正、つまり被試験OBEの受信レベルを校正するために、OBEを置く位置に基準パッチアンテナを置き、その出力をピーク電力計で測定し、その測定データをパソコンに入力することによって、校正データが作られる。

    図7:ETC車載器受信感度検査システム

    図7:ETC車載器受信感度検査システム

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